良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

読書

『『百年の孤独』を代わりに読む』友田とん

note.mu 友田さんとは、かつて柴田元幸と佐藤良明のピンチョン『重力の虹』刊行イベントでニアミスしていたのがきっかけで、Twitterで相互フォローとなった。それ以来たいしてネット上で話もしておらず、互いにごくたまにふぁぼり合うだけの仲であり、友田さ…

【2カ国目】『野蛮なアリスさん』ファン・ジョンウン:韓国①

近年の韓国文学の躍進はめざましいものがある。日本翻訳大賞の第一回と第四回ではそれぞれ『カステラ』と『殺人者の記憶法』が受賞しているし、近現代の作品がどんどこ翻訳されている。この躍進は、今回取り上げるファン・ジョンウンも訳している斎藤真理子…

『恥辱』J・M・クッツェー

インテリ性欲おじさんの失墜物語、と言ってしまうと自虐ギャグ漫画みたいだな。 前半はそのとおりで、ウワこんなおじさんキッツイ、キツすぎるキモい、と笑いながら読んでいたが、だんだんそのおじさんを取り巻く状況がしんどく重くなっていく。 中盤あたり…

【1カ国目】『脳天壊了』吉田知子:日本

アステリオンの旅行鞄、栄えある第1カ国目。まずは日本から。 今回選んだのは吉田知子の短編選集。完全にタイトル勝ちの『脳天壊了(のうてんふぁいら)』。意味としては「大馬鹿者」とか、「頭イカれちゃってる」「イっちゃってる」というようなところ。Wi…

『イエスの幼子時代』J・M・クッツェー

キリスト教を基底としての寓話・・・というのは正直私の知識不足もあってよくわからなかったけど、するする読める反面、大いなるもやもやが残る作品だった。この作品内で描かれる世界はパッと見、狂ってると思いきや、実はいまの日本社会と大差ないというか…

『紙の民』サルバドール・プラセンシア

愛すべきダメ男ものがたり ダメ男ブンガクは数多くあれど、(私が好きなものだとラウリー『火山の下』、パワーズ『オルフェオ』など)『紙の民』はとことんダメ男の情けなさを物語、いや、物語を越えてこちら側にはみ出してくる形で楽しませてくれる小説だ。…

『氷』アンナ・カヴァン

長らく絶版になっていたサンリオSF文庫から時を経てちくま文庫から復刊された『氷』。カヴァン生前最後の作品。SFとも幻想文学ともとれる(プリーストの序文にはスリップストリーム、とある)この作品、のっけから眼前に迫る氷のヴィジョンに圧倒される。 ど…

『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ

本しかなかった。 誇張でも冗談でも自虐でもなんでもなく、単なる事実として、本当に心の支えと呼べるものは、私にとって本、いわゆる文学しかなかった。本でなくても、絵でも、写真でも、音楽でも、園芸でも、なんでもいい、何かに心を奪われてすべてを持っ…

『亡命ロシア料理』ピョートル・ワイリ/アレクサンドル・ゲニス

料理なんて食べられればいいと思っていた 得意料理はカレーとシチューとポトフと鍋。茶色いものはだいたいおいしい。好きなものは何度でも繰り返し食べる。嫌いなものはない。持っている調理器具はおたまと鍋とフライパン。という、良くも悪くも食に対して雑…

『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ

夜熟睡しない人間は多かれ少なかれ罪を犯している。彼らはなにをするのか。夜を現存させているのだ。 夜を愛し、夜に呪われている人々へ 寝苦しい夜にふとどこからか吹いてくる、色々な匂いをはらんだ風。それは隣家のカレーのにおいだったり、大学生の焚く…