良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ

 

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ミランダの視線はいつも真摯で誠実だ。


彼女が描く人物たちは、たいていどこかズレていて実際会ったら「ウワァ…(ドン引き)」となるような人々だけれど、その人たちにはその人たちなりのルールがあって、ミランダはそれを「ウワァ…」と思う部分も含めて誠実に描く。
バカにもせず、崇めたりもせず、ニヤけたりもせず、真顔で淡々と。「ウワァ…」と思ってしまう側の人間のことも同じく。だからミランダの筆致はいつも真顔。単純にズレてる・痛い人たちを描くだけならギャグとしてワハハと笑って終わりだが、ミランダの真顔は、つい笑ってしまう自分が間違っているのではないか、笑われているのは私なのではないか?という視点の転換をもたらす。
私が今ドン引いてしまった彼女の言動は、果たして本当におかしいものなのか?彼女は彼女なりに真面目に生きているのに、それを斜めから笑う私の方こそちゃんちゃらおかしいのではないか?という気持ちになる。
私はそれがとても好きだ。不快な部分(自身のことを疑わざるを得ない状況は、少なからず不快だ)があるから、余計に好ましく思う。

 

この作品の主人公、43歳のシェリルの言動も、「自分の思い通りにならない現状への不満をどうにかこうにか妄想へ転嫁することで日々をやり過ごしている女性」ということで、おそらくまっとうに人生をクリアしている方々にとってはかなり不快な人物なのではないだろうか。「もっと自分と他人に向き合えよ!認めろよ!妄想で補完するのをやめろ!」というように。
私は人生第一面をクリアできないままでいるのでそれほどでもないが、逆に「これ私もあるわ」的な「ウワァ…(自身のイタさを客観視させられたことによる自身へのドン引き)」があった。
シェリルのいわゆる「イタさ」は夢女気質を持つ人間には生爪を剥がされるような苦痛がある気がする。

 

他の登場人物たちも、とにかく全員どこか必ず「不快感」を抱かせるような人物たちで、あなたのためのイタさはここにありますという「イタさ展示会」の様相があり、その意味では割と万人受けなのではないだろうか。職場のものすごく足の臭い女の子に読んでほしい。言えなくてごめんとは思っている。

 

物語の軸としてはイタい女シェリルが眼の前に立ちはだかる現実とどう向き合い、生きていくのか、というところなのだが、その答えの出し方が本当にミランダらしいというか、おもいっきりバット振ったね〜〜!!という感じで爽快感がある。このラストについては賛否両論だろうが、結構わかりやすくハッピー(?)エンドだし。

 

ミランダが、あとがきにもあるように複数の結末を考えた中からこれを選んだってこと、それは私としてはすごく嬉しかった。

 

全部読んでからタイトルを眺めてみると、本当に良いタイトルだなと思う。すべてここに集約されていて、一捻りあって。本年度後期グッドタイトル賞です。もちろん中身も素晴らしいけどね!

 

 

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

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