良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

『マルドゥック・アノニマス4』冲方丁

 

ウフコックの死が約束されているアノニマス、第4巻。スクランブルの頃からずっと読んでいるけれど、バロットの成長っぷりに目頭が熱くなる。世界の何もかもを諦めていた彼女が、ウフコックやイースターズ・オフィスの仲間たちと出会って、未来を自分で選択することができる、自分にはその価値があると(本当は誰でもそうなんだけど、このことに気づくことはやっぱりなかなか難しい)理解し、歩き始める。本巻はバロットとウフコックのバディ再び!という感じで二人の戦いと、そこに向けてバロットが努力してきた姿が交互に描かれていて、古くからのファンは歓喜なんじゃないかな。

 

なつかしの楽園メンバー(イルカとのプールのシーン!)も、彼らの今も描かれていて本当にここまで追いかけてきてよかった・・・と感無量になってしまう。

 

バロットもただの頭脳明晰めちゃ強な美少女というだけではなくて、20歳前後でそこそこ頭のキレる子あるあるというか、大二病というか、この年頃ならではの「イキリ」があって微笑ましい。そしてなにより、あんなにツンケンして無愛想だったバロットが、高校で友達もできて、卒業旅行なんかしちゃって、笑っておしゃべりしている姿を見るとお母さん涙が止まらないんだよね。

 

マルドゥックシリーズで描かれる人物たちはとても強欲だ。自身の信条を守るためならなんだってする。その信条は敵でも味方でも、きちんと理屈がある。どんなに突拍子もない行動や、残虐な暴力を行使したって、その行動の裏付けとなる信条があって、それは善悪どちらにもいつだって翻る可能性を秘めている。バロットが法律家を目指す、というのもコインをひっくり返す手段を暴力ではなくて「法」を使って行うためだと考えるととても納得がいく。


一応(一応?)適役のハンターが掲げる理想〈均一化(イコライズ)〉だって、バロットは利用していく。悪徳を、ひっくり返せる瞬間を虎視眈々と狙っている。

 

 

《約束する。絶対、何も手放さない》
(p.119)

 

バロットは幸運にも与えられた環境を最大限に活用して、成長していく。その強欲さが見ていて気持ちいいし、勇気づけられる。何も手放さなくていいんだって。

 

 

「ヘイ、ルーン。ぶっとばしちゃいなよ」
(p.19)

 

冒頭に出てくるこのセリフは、バロットの友人が語ったセリフ。
このセリフは作中で何度か出てくるけど、その度に泣いてしまう。いままでずっと、「ぶっとばす」なんてことをしてこなかった、おとなしくて無口だったバロットが、自ら望んで「ぶっとばす!!」と熱くなる姿は最高にかっこいい。もうバロットはひとりじゃなくて、たくさんの仲間と、少しの友人と、オフィスの家族がいるから、ちゃんとぶっとばせる。

 

『天冥の標』と『マルドゥック〜』のシリーズは日本SFの長編シリーズで追いかけてきて本当に良かったと思える2作。

完結してしまうのが怖いけど、完結のその先に見えるものを、私は絶対に見届けたいから、5巻以降も楽しみにしている。