良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

2018-01-01から1年間の記事一覧

『知的トレーニングの技術』花村太郎

「知的」になるためにはどうすれば良いのか。 「勉強すれば良い」とは言っても漠然としすぎて何から手をつけたら良いのかわからない、というのは多くの人が抱えている悩みだろう。語学でも経営学でも文学でも、その世界は広大すぎて目が眩む。 それでも先に…

『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾ ートナイト』宮澤伊織

ネットロア×怪談×強い百合、待望の第2巻。今回もごちそうさまでした。 巻を重ねるごとに空魚は鳥子にゾッコンになっていくな。虜だけに…それにしても空魚は鳥子に見惚れすぎじゃないか。顔と身体が良い女は百合力がつよい。サービスシーン(何の?)多かった…

『零號琴』飛浩隆

私は今、何を読み終わったのか。 これほどまでに良い意味で「何を読んだのか」が読後に分からなくなる小説も珍しいと思う。それくらい『零號琴』は怒涛のうねりとその中に含まれる幾多の小ネタが緻密に設計され盛り付けられた特上の一品。それらの味わいが豊…

インク沼の住民にもやさしい万年筆 パイロット カクノ

万年筆は楽しい。これは筆記具で書くことが好きな人は必ずや(ハマりはせずとも)通る道ではないだろうか。私もその一人で、万年筆の、使っているうちにニブが私の書き癖に染まっていく感じや、「私だけのペン」という所有欲をみっちみちに満たしてくれると…

綺麗な文字を書くのなら、ぺんてる「エナージェル」が至高

結論を先に言おう。 2018年11月時点で、私史上、最も字が綺麗に書ける筆記具は、ぺんてるのエナージェルだ。 万年筆、油性ボールペン(ジェットストリームなど)、シャープペンシル、極細ゲルボールペン(juice upなど)、消せるボールペン(フリクションな…

このサイトについて

とにかく自分の書いたものを一元管理したい。いろんなサイトに書き散らかすのはもういやだ!という思いから、ひとまずこのサイトにすべてを包括していくことにしました。このサイトの構成などについてそれぞれ軽く説明しておきます。 タイトルについて スク…

はじめまして

はじめましての方もそうじゃない方も、こんばんわ、ヨイヨルと申します。このごあいさつは、3年前くらいにブログを始めたときに書いたものを加筆・修正しています。なので既読の方ももしかしたらいらっしゃるかも知れません。ご了承ください。 何者か ニン…

詩を読むということ

毎日何かしらの活字を読んでいるが、詩となると毎日の摂取は (私にとっては) なかなか難しくて、その理由として「詩の大量摂取は胃もたれを起こす」からである。 この「胃もたれ」は濃厚かつ重厚かつ難解な (内容的にも、物理的にも) 小説なり評論なりを読ん…

『おばちゃんたちのいるところ』松田青子

連作短編集。ひとつひとつに落語のモチーフがあるが、基本的には現代のお話。いろいろなおばちゃんたちが、若い人たちと関わりあったり、直接は関われずともエールを送ったりする、コミカルであたたかい物語。でも、おばちゃんたちは基本的には死んでいる。…

『傾いた夜空の下で』岩倉文也

この詩集は天気が悪い。 雨が降っていたり、雪が積もっていたり、なんとなくの曇天。それなのにふしぎと湿度がほとんどない。乾いていて、温度も低い。その乾いた質感からか、夏のような、じくじくしたナマモノへの厭わしさを感じる。 死んだ夏をホルマリン…

『遠い水平線』アントニオ・タブッキ

タブッキは本当にどんなに臭くて暑そうな場面を描いても、陰鬱で死が色濃く影を落とす場面を描いても、謎の透明感がある作家。それは以前『インド夜想曲』を読んだときにもつよく感じた。 突然運び込まれた身元不明の死体をめぐって、その死体のアイデンティ…

放送大学がおもしろい

勉強って、学問って、本当はめちゃくちゃに面白いものだってこと、多くの人は知らない気がする。朝は身体に鞭打って会社に行って働いて、帰ってご飯食べてテレビ観てちょっとインターネットしたり本読んだりしてお風呂に入って寝る。社会人になるとその繰り…

『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ

ミランダの視線はいつも真摯で誠実だ。 彼女が描く人物たちは、たいていどこかズレていて実際会ったら「ウワァ…(ドン引き)」となるような人々だけれど、その人たちにはその人たちなりのルールがあって、ミランダはそれを「ウワァ…」と思う部分も含めて誠実…

【3カ国目】『李箱作品集成』李箱:朝鮮

3カ国目は北朝鮮に行こうとしていたのだが、北朝鮮、現代の作品がからきし見つからない。いやもっと本気で探せばあるのかも知れないが、私の検索力と気力(もとから残機が3くらいしかない)では南北分断後で北の作品、となると政治情勢もあるから仕方ないの…

【2カ国目】『あまりにも真昼の恋愛』キム・グミ:韓国②

韓国文学があまりにも豊作すぎて、まだ韓国にいます。ヨイヨルです。こんばんは。 今回は晶文社の、現代の韓国若手作家の作品を紹介している全6冊のシリーズ「韓国文学のオクリモノ」から、キム・グミの短編集をご紹介。このシリーズは装丁がとってもオシャ…

『『百年の孤独』を代わりに読む』友田とん

note.mu 友田さんとは、かつて柴田元幸と佐藤良明のピンチョン『重力の虹』刊行イベントでニアミスしていたのがきっかけで、Twitterで相互フォローとなった。それ以来たいしてネット上で話もしておらず、互いにごくたまにふぁぼり合うだけの仲であり、友田さ…

【2カ国目】『野蛮なアリスさん』ファン・ジョンウン:韓国①

近年の韓国文学の躍進はめざましいものがある。日本翻訳大賞の第一回と第四回ではそれぞれ『カステラ』と『殺人者の記憶法』が受賞しているし、近現代の作品がどんどこ翻訳されている。この躍進は、今回取り上げるファン・ジョンウンも訳している斎藤真理子…

『恥辱』J・M・クッツェー

インテリ性欲おじさんの失墜物語、と言ってしまうと自虐ギャグ漫画みたいだな。 前半はそのとおりで、ウワこんなおじさんキッツイ、キツすぎるキモい、と笑いながら読んでいたが、だんだんそのおじさんを取り巻く状況がしんどく重くなっていく。 中盤あたり…

【1カ国目】『脳天壊了』吉田知子:日本

アステリオンの旅行鞄、栄えある第1カ国目。まずは日本から。 今回選んだのは吉田知子の短編選集。完全にタイトル勝ちの『脳天壊了(のうてんふぁいら)』。意味としては「大馬鹿者」とか、「頭イカれちゃってる」「イっちゃってる」というようなところ。Wi…

アステリオンの旅行鞄:荷造り

ではさっそく、旅に出る準備をしよう。 荷造りにはある程度の秩序が必要。使用済みパンツと新しいパンツは別の袋に入れたいし、ちょっといいレストランに行くときのドレスと、海に行くときのTシャツはごっちゃにならないようにしないといけない。最初にどの…

アステリオンの旅行鞄:はじめに

この地球上に「国」はいくつあるのか。 外務省のデータでは日本を入れて196ヵ国。でもこれはあくまで「日本が認めた国の数」であって、その他の独立国や地域などを入れると206ヵ国。そしてそれらもどこまでを「国」とするのかで変わってくる。このデータを見…

『イエスの幼子時代』J・M・クッツェー

キリスト教を基底としての寓話・・・というのは正直私の知識不足もあってよくわからなかったけど、するする読める反面、大いなるもやもやが残る作品だった。この作品内で描かれる世界はパッと見、狂ってると思いきや、実はいまの日本社会と大差ないというか…