タブッキは本当にどんなに臭くて暑そうな場面を描いても、陰鬱で死が色濃く影を落とす場面を描いても、謎の透明感がある作家。それは以前『インド夜想曲』を読んだときにもつよく感じた。
突然運び込まれた身元不明の死体をめぐって、その死体のアイデンティティのようなものを探しに奔走する、というのが主な筋なんだろうか。
正直、このお話は説明するのがとても難しい。水平線に目を凝らせば凝らすほど自分が何を見ているのかわからなくなるような。それでも読んでいるとスッと風が小径を通っていくような感じがして心地よかった。長い休みにもう一回ゆっくりゆっくり読みたい。
巻末に収録されている須賀敦子のエッセイもとても良かった。タブッキと直接会ったときのエピソードが書かれているのだが、その緊張と嬉しさが率直に伝わってきてとてもかわいい。
- 作者: アントニオタブッキ,Antonio Tabucchi,須賀敦子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1996/08/01
- メディア: 新書
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