良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

読書

『説教したがる男たち』レベッカ・ソルニット

レベッカの著作を読むのは2作目。1冊目は『それを、真の名で呼ぶならば』というトランプ政権の痛烈な批判から環境問題、そしてベースにあるフェミニズムまで幅広いテーマのエッセイ集。こちらもとても興味深かったけれど、よりフェミニズムに焦点を当てた本…

『供述によるとペレイラは・・・・・・』アントニオ・タブッキ

タブッキは水彩画みたいだ、と読むたびに思う。はっきりとした輪郭はないのに、離れて見るとちゃんと全体像が浮かび上がって見えてくるところとか、ぼんやりしているようで、細部はハッとするほど鮮やかだったりするところが、よく似ている。 ペレイラはうだ…

『フェルディドゥルケ』W.ゴンブローヴィッチ

ひとことで言うと、変な小説。ただ、「変」とは言っても、芸術への情熱に裏打ちされた「変」さに、私は惹きつけられる。そんな小説だった。 あらすじは、こんな感じ。30歳非モテ青年がいきなり男子校にぶち込まれ、そこで起こるなんともバカバカしい諍い(「…

2020年 読んだ本ジャンル別ベスト5冊

2020年、はじまったときはこんなことになるなんて思っても見なかった。というのがおそらく多くの人が抱く感慨だろう。私は春くらいから少し自宅勤務があっただけで、夏からはもう、全然普通に出社しており、リモートになったのは面談やら会議やらだけ。それ…

『カッコウが鳴くあの一瞬』残雪

大好きな残雪の短編集。残雪は『黄泥街』でめちゃくちゃにされてからずっと大好きで追っている作家の一人。『黄泥街』はずっと絶版だったのだけれど、白水Uブックスから復刊されたので残雪読んだこと無いよーって人は是非ここから入ってほしい。糞と垢を灰で…

『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー

すみませんちょっと我慢できないので、大声失礼します。『カラマーゾフの兄弟』読み終わったァァァ!!!!クッソおもろ!!クッソおもろやんけ!!!なんだこれ!!!!意味わからん!!!小説のおもろいとこ全部入っとるやんけ弁当!!! pic.twitter.com/…

『見知らぬ乗客』パトリシア・ハイスミス

同性間の巨大感情が大好きなみなさん。「共犯者もの」、お好きですよね?わたしはこう聞かれたら首もげるくらいヘドバンする。あの娘ぼくがもげた首でロングシュート決めたらどんな顔するだろう。ってくらい好き。伝わる? おまえが言ったんだぞ 。共犯者っ…

『竜のグリオールに絵を描いた男』ルーシャス・シェパード

グリオールは巨大な竜。その大きさは背中までの高さが750フィート(約228m)、長さが1マイル(約1.6km)ほどもある。かつて魔法使いがグリオールを殺そうとして失敗し、完全に殺すことはできなかったものの、竜の身体は麻痺して動かなくなった。何千年もの…

『若い読者のための短編小説案内』村上春樹

村上春樹は良い読み手だ。 著名な作家が良い読み手とも限らないが、この本を読んで改めてそう思った。これまで読んできた村上作品の血肉となっているのは主に海外文学(サリンジャー、チャンドラー、フィッツジェラルドなど)だと思っていた。それは確かにそ…

『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』ティモシー・スナイダー

3〜4年前くらいからだろうか、ホロコーストに関する本を細々と読み続けている。理由は世界でもおそらく最も有名な大虐殺の歴史だということ、その歴史を踏まえた文学作品が数多くあり、歴史を学ぶことでよりそれらへの理解を深めたいという気持ちがあったか…

『掃除婦のための手引書』ルシア・ベルリン

写真や映画を見たとき、「ああ、この瞬間を切り取るとは!」とその鮮やかさにハッとする時がある。映像だととくにそれが顕著だが、文学でもその瞬間はあって、まるで新鮮な果物を研ぎたての刃物で半分に切ったときのような、毛羽立った表面からは想像もし得…

『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』SFマガジン編集部

発売が決定してからずっとずっと楽しみにしていたアンソロジー。愛してやまない『天冥の標』の著者、小川一水も参加となれば買うしかない!!ということで、SFマガジンの百合特集から助走をつけてきた身としては、本当に発売が嬉しかった。そもそもジャンル…

『収容所のプルースト』ジョゼフ・チャプスキ

「文学の意義」「文学部の意義」、よく問われるこれらのキーワードに対して苦々しい思いを抱いているのは私だけではないだろう。文学を学ぶこと、文学を楽しむことになんの意味があるのかと、「何の役にも立たない」「ただの娯楽」と蔑まれることもある文学…

『わたしは英国王に給仕した』ボフミル・フラバル

池澤夏樹編の『世界文学全集』にも収められているボフミル・フラバルの代表作がこのたび文庫化!ということで、わたしにとっては初のフラバル作品。 この作品はチェコで働く若き給仕、ヤン・ジーチェが百万長者を目指し、エチオピア皇帝に給仕するまでに上り…

『姑獲鳥の夏』京極夏彦

――君を取り囲む凡ての世界が幽霊のようにまやかしである可能性はそうでない可能性とまったく同じにあるんだ。 この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。p.92 はじめての京極堂。分厚すぎる(『姑獲鳥の夏』は比較的薄い方)、ペダンチック、日本…

『鼻/外套/査察官』ゴーゴリ

ゴーゴリの作品は青空文庫にも入っていて無料で読めたり、いろいろ翻訳が出ている。私が光文社の古典新訳を選んでみたのは、「落語調で訳されている」というのが(賛否両論あるみたいだが)なかなか挑戦的で面白そうだなと思ったから。あと来るべき『死せる…

『マルドゥック・アノニマス4』冲方丁

ウフコックの死が約束されているアノニマス、第4巻。スクランブルの頃からずっと読んでいるけれど、バロットの成長っぷりに目頭が熱くなる。世界の何もかもを諦めていた彼女が、ウフコックやイースターズ・オフィスの仲間たちと出会って、未来を自分で選択す…

『カフカの父親』トンマーゾ・ランドルフィ

イタリアの鬼才、トンマーゾ・ランドルフィの短編集。奇想天外なお話、どれも質感が違っていてバリエーション豊かで面白かった! その中でも「カタチがないものに別の特性を付与する」作品が私は好きだな。 「『通俗歌唱法教本』より」は人間が喉から発する…

『南十字星共和国』ワレリイ・ブリューソフ

ロシア・シンボリスト詩人、ブリューソフの散文作品集。そもそもシンボリズムが何なのかイマイチわかっていないが、わかっていなくても十分に楽しめた。この作品集は全編通して一般的には二項対立するとされるもの、例えば「虚像」と「現像」、「夢」と「現…

『アメリカ 非道の大陸』多和田葉子

『容疑者の夜行列車』同様、二人称短編(連作?)小説。多和田葉子の小説は続けて読むと多和田葉子酔い(?)するので一気に複数冊は読めないのだが、この作品は比較的軽めなので続けて読んでも大丈夫そう。「あなた」がアメリカ各地を旅していくのだが、行…

『アメリカ死にかけ物語』リン・ディン

俺たちの住むこの国は、バーガー調理係、ブリトー調理係、タコス調理係、カクテル係、無愛想なレジ打ち、介護人、犬の散歩屋、看板を振る自由の女神、路上生活者、あるいは物乞いたちの国になった。 俺にはちっとも超大国のように聞こえない。p.287 「戦争と…

『知的トレーニングの技術』花村太郎

「知的」になるためにはどうすれば良いのか。 「勉強すれば良い」とは言っても漠然としすぎて何から手をつけたら良いのかわからない、というのは多くの人が抱えている悩みだろう。語学でも経営学でも文学でも、その世界は広大すぎて目が眩む。 それでも先に…

『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾ ートナイト』宮澤伊織

ネットロア×怪談×強い百合、待望の第2巻。今回もごちそうさまでした。 巻を重ねるごとに空魚は鳥子にゾッコンになっていくな。虜だけに…それにしても空魚は鳥子に見惚れすぎじゃないか。顔と身体が良い女は百合力がつよい。サービスシーン(何の?)多かった…

『零號琴』飛浩隆

私は今、何を読み終わったのか。 これほどまでに良い意味で「何を読んだのか」が読後に分からなくなる小説も珍しいと思う。それくらい『零號琴』は怒涛のうねりとその中に含まれる幾多の小ネタが緻密に設計され盛り付けられた特上の一品。それらの味わいが豊…

『おばちゃんたちのいるところ』松田青子

連作短編集。ひとつひとつに落語のモチーフがあるが、基本的には現代のお話。いろいろなおばちゃんたちが、若い人たちと関わりあったり、直接は関われずともエールを送ったりする、コミカルであたたかい物語。でも、おばちゃんたちは基本的には死んでいる。…

『傾いた夜空の下で』岩倉文也

この詩集は天気が悪い。 雨が降っていたり、雪が積もっていたり、なんとなくの曇天。それなのにふしぎと湿度がほとんどない。乾いていて、温度も低い。その乾いた質感からか、夏のような、じくじくしたナマモノへの厭わしさを感じる。 死んだ夏をホルマリン…

『遠い水平線』アントニオ・タブッキ

タブッキは本当にどんなに臭くて暑そうな場面を描いても、陰鬱で死が色濃く影を落とす場面を描いても、謎の透明感がある作家。それは以前『インド夜想曲』を読んだときにもつよく感じた。 突然運び込まれた身元不明の死体をめぐって、その死体のアイデンティ…

『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ

ミランダの視線はいつも真摯で誠実だ。 彼女が描く人物たちは、たいていどこかズレていて実際会ったら「ウワァ…(ドン引き)」となるような人々だけれど、その人たちにはその人たちなりのルールがあって、ミランダはそれを「ウワァ…」と思う部分も含めて誠実…

【3カ国目】『李箱作品集成』李箱:朝鮮

3カ国目は北朝鮮に行こうとしていたのだが、北朝鮮、現代の作品がからきし見つからない。いやもっと本気で探せばあるのかも知れないが、私の検索力と気力(もとから残機が3くらいしかない)では南北分断後で北の作品、となると政治情勢もあるから仕方ないの…

【2カ国目】『あまりにも真昼の恋愛』キム・グミ:韓国②

韓国文学があまりにも豊作すぎて、まだ韓国にいます。ヨイヨルです。こんばんは。 今回は晶文社の、現代の韓国若手作家の作品を紹介している全6冊のシリーズ「韓国文学のオクリモノ」から、キム・グミの短編集をご紹介。このシリーズは装丁がとってもオシャ…