良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

『姑獲鳥の夏』京極夏彦

 

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――君を取り囲む凡ての世界が幽霊のようにまやかしである可能性はそうでない可能性とまったく同じにあるんだ。

 

この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。
p.92

 

はじめての京極堂。分厚すぎる(『姑獲鳥の夏』は比較的薄い方)、ペダンチック、日本の怪異にさほど興味なし、といった先入観から一度は読んでみたいと思いつつ手が伸びなかったが、友人に勧められて読んでみたら、存外面白くって一気読みしてしまった。


まずなにより京極堂シリーズはキャラクターが個性あふれる魅力的な人物ばかり。京極堂こと中禅寺秋彦はその羽織ものからし京極夏彦本人の容姿そのままなのでは、という強烈な印象なので京極夏彦の姿で脳内再生されてしまうのは良いのか悪いのか・・・。他にはメンタルよわよわ作家・関口君、中性的で奔放な探偵・榎木津、強気で明るい妹分・中禅寺敦子、頑固刑事木場、などなど。

 

私は細身で自由奔放、周りを振り回すくせに憎めない中性的で顔がいい人物が性癖に刺さるようで(『天冥の標』のアクリラ・アウレーリアが生涯の推しというところから察してもらいたい)まんまと榎木津にドハマリしてしまった。ただ、本作では榎木津の活躍はあまり見られず残念。

 

読み始め、前述の通り(京極堂の職業「憑き物落とし」なんて、オカルトそのものじゃないか、どうせ妖怪と派手にバトルして終わるんだろう)くらいの悪意ある先入観を持っていたのだが、冒頭で京極堂が関口に語る百鬼夜行についてのうんちくが意外と(失礼)しっかりしていて好感度が急上昇。
量子力学と観測の話がでてきたため、すわ、この作品のジャンルはSFかと前のめりになってしまった(違った)。科学だけではなく宗教・心理・民族・哲学、その他もろもろちゃんと「学問」に根ざしたものとして怪異を説明しており、比較的簡潔でわかりやすく、好きな方の「ペダンチック」だったので胸をなでおろした。

 

姑獲鳥は鳥でもあり、産女でもあり、母でもあり、もちろん畏怖を抱かせるような妖怪でもあって、「見る側の心理や状況によりその捉え方が変わる」ということを主軸に(このあたりは読み終わったあとに表紙/口絵にある彫刻作品を眺めるとなるほどねと思わされる)展開される容姿端麗な美女姉妹とその夫の密室殺人。よわよわ関口君がフラフラしながらなんとか美女姉妹を助けようと奮闘する。まあ最期に全部京極堂に持っていかれてしまうのだが。がんばれ関口君。
関係者全員の前で京極堂が大風呂敷を畳む謎解きクライマックスはなかなかに鬼気迫るものがあり、ページを繰る手が止まらなくなる。なるほど人気が出るのもわかるな。いやー面白かった。

 

本シリーズはやはりどうしても厚みがネックなので次からは電子書籍で読むつもり。
とにかく榎木津の活躍が読みたいとつぶやいていたら『百鬼夜行』がいいんじゃない、と教えてもらったのでそこから攻めようかな。でもこれは邪道なのかな?。京極ファンの方、ぜひルートのご指導を賜りたく。

 

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)