同性間の巨大感情が大好きなみなさん。
「共犯者もの」、お好きですよね?
わたしはこう聞かれたら首もげるくらいヘドバンする。あの娘ぼくがもげた首でロングシュート決めたらどんな顔するだろう。ってくらい好き。伝わる?
おまえが言ったんだぞ 。共犯者って 、この世で最も親密な関係だって 。
・・・と思わず裏世界ピクニックの名台詞から引用してしまうくらい、この作品は真っ向から男性同士の共犯関係を親密に描いている。ハイスミスといえば、映画にもなった『キャロル』『太陽がいっぱい』で有名だけれど、本書がデビュー作。出た〜〜デビュー作がモンスター級の作家〜〜〜〜(山尾悠子、ピンチョン、残雪etc…)と雄叫びを上げてしまうくらい、こちらも本当に良かった。
物語は、建築家のガイと風来坊のアル中富豪ブルーノが偶然列車で知り合うところから始まる。乗り合わせてきたほろ酔いのブルーノの顔をガイがしげしげを観察する場面があるのだが、ここでガイはブルーノの顔を「おもしろい顔」とか言ってるので、この時点で聡明な読者の方はお気づきになるであろう。ふと近づいた相手に見とれてしまう、「きれいな顔・・・」「まつげ長・・・」というお決まりのアレである。要するに物語の初っ端からこの二人がどうしたって離れられない関係に陥ることが明言されている(満面の笑みで断言)。
そして、ブルーノは「ぼくの考えたさいきょうのさつじんけいかく」こと交換殺人をガイに持ちかける。お互いよろしく思っていない相手をそれぞれ殺そうというもの。ブルーノはガイの元妻を、ガイはブルーノの父親をそれぞれ殺し、二人の関係性がバレなければ完全殺人、というわけ。
ガイは全然その気ではなかったのに、猪突猛進でアル中ゆえ若干頭のネジが外れているブルーノが先にガイの元妻を殺してしまい、動転したガイが右往左往しながらブルーノの計画に否応なしに巻き込まれてゆく。
ブルーノがどんなにめちゃくちゃやっても(常に飲んだくれ、勝手にガイの主催するパーティに登場して場を台無しにする、ガイを執拗にストーキング、などなど)ハイスミスならでは、という感じの、ブルーノの情熱と、緊迫した呼吸が繊細な筆致で描かれていて何故か下品な印象にならない。
対してガイは生真面目で現在の妻を真摯に愛し、平穏な日常を望んでいるのに悉くブルーノに邪魔をされてしまう。ガイはそんなブルーノを憎みながらも、自身も殺人者とならなくてはならないという切迫感で頭がいっぱいになってゆき、しまいには「俺はお前が好き」となってしまう物語の中盤、ここの描写は本当に白眉。
最初読んだときは「ジェットコースター理論」やんけと思って爆笑してしまったのだが、いやいやどうして、わたしもこの状況におかれて相手から好き好き言われたら「わけわからん、お前なんかはやくこの世から消えてくれ(愛してる)」となるかもしれん。押しに弱いので(そういう問題か?)。
破天荒で暴君、嵐の如き愛情で相手も自分もぐちゃぐちゃにしてしまうブルーノと、冷静沈着、頭脳明晰、寡黙で穏やかなガイ、と対象的な二人が徐々に共犯関係となっていく様子はハラハラしながら(ニヤニヤしながら)固唾を呑んで見守ってしまう。
ラストは悲劇的ではあるけれど、その物悲しい余韻が心地良くて。これは他のハイスミス作品でも感じることで、主人公がドクズ(『太陽がいっぱい』からのリプリーシリーズ)で途中どんなにハチャメチャな展開になっても、どんなにひどい結末になっても、どこか静謐で清浄な空気が漂っているんだよね。これほんと不思議。
今回も、ハイスミスは本当に、オタク心理を絶妙に突いてくるな〜〜〜くっそ〜〜〜好き!!!!となった読書体験だった。
オタクではないと豪語しているあなたにこそ読んでほしい。そもそもオタクってなんだ。
BLとか百合とかのジャンルにとらわれず、堅牢で美しい舞台設定の上で人間同士の感情のぶつかり合いを描く作品、が嫌いな方はあまりいないと思うので、ぜひ。
そして沼にはまったら、上記のリプリーシリーズをどうぞ。こちらも大傑作。もちろん『キャロル』も忘れずにね。
※ちなみに『見知らぬ乗客』は長らく積んでいたところ、ツイッターでかかり真魚さんが絶賛していたのでそれならばと手にとった次第。かかりさんありがとう〜!ラブ!