良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー

[ドストエフスキー, 原 卓也]のカラマーゾフの兄弟(上)(新潮文庫)[ドストエフスキー, 原 卓也]のカラマーゾフの兄弟(中)(新潮文庫)[ドストエフスキー, 原 卓也]のカラマーゾフの兄弟(下)(新潮文庫)

 

 

いや〜読み終わってしまった。中高生の頃に一度チャレンジして挫折して、大学生の頃に再度チャレンジして挫折して、社会人になってから再々度チャレンジして挫折して、今回ようやく3巻読み終えて感無量。ちなみに挫折箇所は毎回同じ、序盤も序盤、家族会議を修道院で行っている最中のフョードルの長広舌のところ。「いい加減あんたうるさいよ」と思って閉じていた。勿体ないことをしていたものだ。
先に結論から言うと、本当に読んでよかった。きっとこの先、積読が万が一なくなっても(死ぬか家が燃えるか焚書の刑にあうかくらいしないと無くならないが)この3冊があれば大丈夫。何度でも面白いだろうし、再読のたびに新しい発見ができるだろう。そういう確信が持てる本は、良い本。わたしは知っている。

 

で、わたしの言いたいことは上に貼ったツイートに全部集約されているので正直あまり書くことはないというか、この本について詳しく書き始めると人生まるごとエントリーになってしまうのでやめておく。それくらい、全部盛りだった。『天冥の標』がSF小説の醍醐味全部盛りなら、『カラマーゾフの兄弟』は純文学の醍醐味全部盛り。キャラ萌えするもよし、イワンVSアリョーシャの宗教観バトルを楽しむもよし、イワン渾身の一大叙事詩「大審問官」をとことん追求するもよし、BLも百合もなんでもある、この本に関しては解釈違いがどうこうなんて無粋なことはやめて、好きなように読んだら良いのだ。

 

ちなみにわたしの推しはイワン、そしてグルーシェニカ×カーチャのCP、というかもう全員好き、箱推しである。最初はアリョーシャ一択でしょ(基本、見た目貧弱なのに実は頑固なところもある美少年が好き)と思っていたのに、読み進めていくと「大審問官」のくだりでイワンの苦悩に歪む顔にベタぼれしてしまい、グルーシェニカ×カーチャの殴り合い(隠喩)の場面では彼女たちが踏みしめる床になって二人を拝んでいた。エピローグではこの二人の最高なシーンが観られるので本当に長いけど報われたというかドストエフスキーこんなとこで伏線回収しやがってこのやろう愛してる!となってしまった。ここまで息継ぎせず書いてますが、いやほんと作画も神なんですよ。絵、ないけど。


なんだかんだで読み終わったらなんだか全員が愛おしくて、全員を抱きしめたい気持ち。ときどきひょこっと顔を出す作者・ドストエフスキー含めて全員、大好きだ。「もういいから、ちょっと作者は引っ込んでてw」となったりもしたが、そういう、作者が並走してくる小説は、実は結構好きだったりする(例:ローラン・ビネ『HHhH』)。
登場人物は癖のある人間ばかりで、ロクでもない輩もいるけれど、生粋の悪人はこの小説には出てこない。女遊びしまくって子供もほったらかし、ケチで自己弁護にだけは長けてる嫌な親父だなと思っていたフョードルも、なかなかどうして、その自嘲やうるさい道化の喋りには共感できるとこともあったり。共感性羞恥が働いて目をそらしたくなるような彼の振る舞いは、他人事とは思えない。わたしも自分を守るためにめっちゃ喋るので。

 

この本を読み始めたのは2020年1月半ばで、その頃はまだCOVID-19もなんとなく他人事でマスクせずに出勤、満員電車に揺られながら読んでいた。「そもそも今更マスクしたところで意味なくない?」なんてのんきに同僚と話していた。4月に読み終わった頃にはもう、通勤電車は1シートに3人くらいの割合になり、WEB会議が普通になり、家の近所にしか買い物には出なくなった。マスクはもはや社会的記号となっている。毎日まるで小説のように最悪を更新し続ける政府と、それに振り回されて摩耗していく精神と、適切な距離を保たないと身が持たないSNS

 

 

現在われわれは、慄然とするか、あるいは慄然としたふりをして、その実むしろ反対に、われわれの冷笑的で怠惰な無為を揺さぶってくれる強烈な異常な感覚の愛好者として、この見世物を楽しんでいるか、さもなければ、幼い子供のように、この恐ろしい幻影を両手で払いのけ、恐ろしい幻影が消え去るまで枕に顔を埋め、そのあとすぐ愉悦と極楽の中でそれを忘れ去るつもりでいるか、なのであります。だが、やがていずれは、われわれもまじめに慎重に生活をはじめなければならないのです。われわれも社会としての自己に目を向けなければなりません。われわれとて社会問題にせめて何らかの理解を持つか、でなければせめて理解を持とうとしはじめねばならないのです。(下巻 p.464)

 

世界が混乱し、感染は他人事ではなくなり、他者との接触が制限され、先の見えない不安でいますぐ死んでしまいたくもなるけれど、その渦中にこの本が読めていたことは、幸せだった。わたしがなんとか正気を保てたのもこの本のおかげかもしれない。本当に楽しくて、最高の読書体験だった。

 

折を見て、何度でも再読したいし、ドストエフスキー全部読みの機運の高まりを感じるので、次は『罪と罰』に行こうと思っている。待ってろよラスコーリニコフ・・・!

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)

 
カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)

 
カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)