良い夜を待っている

読んだ本の感想など。最近はPodcastで配信しています。

“良い夜を待っている”

『知的トレーニングの技術』花村太郎

f:id:yoiyorU:20181128003823p:plain

「知的」になるためにはどうすれば良いのか。

 

「勉強すれば良い」とは言っても漠然としすぎて何から手をつけたら良いのかわからない、というのは多くの人が抱えている悩みだろう。語学でも経営学でも文学でも、その世界は広大すぎて目が眩む。

 

それでも先に進むために、独学・独習を軸としてまずは「自分のアタマで考える」ことから始めていこう、学校や機関の制度にとらわれず自分なりの方法を打ち立てて行こう、というのがこの本の趣旨。

初版は1980年で、その後2015年に文庫化。
なので若干使用しているツール類が古めかしく、本とノートとペンとカード、くらいしかないが、思考術そのものやアナログな管理方法が合うひとたちには今でも十分通じるところがあるとは思う。

 

この本は科学者や学者、要するに「知識人」として生きていくためのノウハウ本ではない、と作者は言う。

 

 

人生を「意味づける」ことができるようになりたい。
世界と時代と自分の人生にたいして、より自覚的により賢くかかわりたい

 

そのためには具体的にどう独習を進めていけば良いのか、その手法が過去の偉人たちの作品や、彼らの人生を例にとりながら紹介されている。

 

・・・とまあここまでが概要で、イントロダクションまで読むとなるほど頑張るぞ!となるのだが、その次の章でいきなり出鼻を挫かれる。

 

準備編 志をたてる」は基本的にこれから勉学に励んでいく若い学生や新社会人あたりの年齢を主なターゲットとしていて、私のようなくたびれたサラリーマンは正直、明言はされていないものの対象外とされている。そもそもこの章では「老いると知力が低下するのです早めに方向性を決めましょう」と言っているのでまずそこでゲンナリ。そりゃそうだけどさ〜そんなこと言ったら身も蓋もなくないか!この時点でやる気をそがれる。
しかもそれを孔子世阿弥ボルヘスボーヴォワールアインシュタインなどなどの悲劇例も入れつつ裏付けしているってのも嫌味かよと心の狭い私は思ってしまう。だってイントロダクションでは学生だけじゃなくてサラリーマンでも頑張ってやっていきましょうみたいなこと言ってたやんけ。

 

学生時代遊び呆けて何にもしなかった人たちが突然勉強始めたって良いし(私のことです)そこにも希望を見出してくれよ。あと年齢で区切るのはダサい。

というか何者にもなれないことをわかってしまったがゆえの強さを持つ中年のことをバカにすんじゃねえぞという気持ちに。まぁ早めのライフプラン二ングは大事だけども。

 

実践編 読み・考え・書くための技術11章」は割と参考になる部分が多くて、もともと本を読むのが得意ではないひと向けのテクニックも載っているし、積読全肯定、蔵書こそが自らの知的空間になるとしているのも良かった。
思索場所のおススメで第一に挙げられているのが「監獄」、欲を言えば独房、というのはこの本唯一のお笑いポイントなのでそこもまあ良かったかな。

 

ただ後半の科学〜さまざまな巨匠たちの思索スタイルについての章はもう何が言いたいのかハッキリしないし風呂敷広げ過ぎている感がすごい。ブックレビューとしてもイマイチ。

 

 

孤独な思考場所は「地球」という一個の球体をもって終わるべき

 

というのも意味不明。これが「エコ」なんだそうだ。なんでだよ。
絶対に火星で思考してやるからな。ダクトテープなめんな。

 

また、作者の知人らしき人物だけ突然「山口昌男さん」「寺山修司さん」とさん付けしてくるのにも面食らう。山口昌男には本書を褒められたということでさん付け、ぽいのだがこれも本文でやるのはダサくないか。後書きでやれ。全巨匠たちにも「さん」を付けろよデコ助野郎。

 

そもそも人生に意味なんかないでしょ。意味付けは個人が勝手にすればいいけど、ないままだからこその知への渇望だってあんでしょ。というのが私のスタンスなので、最初に引いた箇所から私とは相容れないことが分かっていたのに意地で全部読んでしまった。
ということで7割くらいムカつきながら読んでいたので私はこの本、好きじゃない。

 

若い人が読むには良いかもしれないけれど、そうやって年齢で区切って切り捨てるから歳とって思考停止するんじゃないの。